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特別

紅様より

 まだ肌寒い風が流れるにも関わらず、辺りには多彩に花が咲き乱れていた。
 幻想的に花びらが目の前に舞う。
 そんな中を、二人は歩いていた。
「綺麗ですね。丁度花時だったんですね!」
 軽い足取りで『ルナ イングルス』は花吹雪に近寄る。
 その後に、いつもと変わらぬ足取りで『ファイス クライン』が続く。
 ルナは無邪気に、ハシャぐようにして落ち行く花びらに手を伸ばす。
 ファイスは、近場の岩に腰をおろした。辺りには他に誰も見当たらず、
 自分達二人だけしかいないようだ。
 これだけ美しく咲き乱れる花だが、誰にも見られる事無く咲く光景はただ虚しく見える。
 しばし瞑想に耽っていると、自分に近づく足音に気付く。
 足音の方に目を向けると、ルナが満面の笑顔で立っていた。
「花が綺麗ですよ。……一緒に見ませんか?」
 ファイスは目線をルナから花へ移す。ルナへの返答はない。
 だがルナは沈黙を肯定と取り、その場に座る。

 人の目に触れられぬ隔離された空間に、ファイスは微かに好意を感じた。
 妖艶な瞳が幻想的な風景を映す。
「花って……」
 唐突にルナが口を開く。
「……花ってすぐに枯れてしまうのに、何で咲いてる時は綺麗なんでしょうね」
 不可解な発言に、ファイスは眉を寄せる。
 ルナは言葉を続ける。

「どうせ枯れるなら、最初から咲かなくていいのに、って思いませんか?」
 ルナとファイスの目が合う。
 だがファイスはすぐに目線をはずし、無言で花に目を映す。
「生き物も、同じですよね」
 ルナも、花を見る。
 だが、唐突に立ち上がり、ファイスの前に躍り出る。
「でも、僕達は違いますよね?そんなすぐに“枯れない”ですよね?……」
 僕達は特別ですよね、とルナは満面の笑みを向ける。
 碧玉が微かに妖光を散らす。
 目を細めてルナを見る。
「……行くぞ」
 ファイスは立ち上がり、背を向けて歩き出す。
「はい!」
 その背を、ルナが追う。