INDEXに戻る | TreasureTOPに戻る | ページ下部へ▼

thought which voice tells

氷坂黒夢様より

 ここは、町から大分離れた場所にある森。
 太陽の光を吸い込み綺麗に輝く葉たちが、風に揺らされ音を鳴らす。
 人がざわめいているようなその音は、まるで葉たちが話をしているかのようだ。
 少しでも耳を澄ませば安らぐような優しい声…。
 音が響く中、森の奥へと進んでいる3人組の姿があった。
「随分と奥まで来たな…」
 困った顔をしているガイは、木々を仰いで小さく呟いた。
 彼の言葉からすると、元々森の奥まで行くつもりはなかったようだ。
「ま、道に迷っただけだけどな」
 訂正を入れるかのように、ナユタの呆れ声が聞こえてきた。
 そう、彼らは道に迷ってしまったのである。
 簡単に調査が終わると思いきや、この森は迷いやすいつくりになっていた。
 調査している内に、まさかここまで事態が悪くなるとは、誰も予想していなかった。
「元はと言えば、ナユタが悪いんでしょう!大事な地図を宿屋に忘れてくるなんて!!」
 ケイは森に迷った原因がナユタにある、と彼を責める。
「まぁまぁ、ケイちゃん。落ち着いて」
「ここから出られなくなったら、どうするの!」
 本人は忘れた自覚がないのか、ケイよりも落ち着いていた。
 騒ぐケイに、全く焦る様子のないナユタ。
 ガイは眉間に皺を寄せて、悲痛な声をあげる。
「ケイ、ナユタ。少し、静かにしてくれ…」
「はぁい…」
 元気なのは構わないが、少々有り過ぎる。
 ガイに注意されたケイは、先程の騒ぎからは考えられないほど大人しくなった。
「ナユタの所為よ」
 それはガイの前だけであって、ナユタには鋭い目つきで睨みつけてくる。
「オレの所為にするのか…」
 この違いは何なのだろうか。ナユタは肩を竦めた。
 ケイは、反省して静かにガイの傍を歩こうとした時。

「おーい!こっちこっち!!」
「投げるからねー!?いっくよー……!!」

 ふと、声が聞こえてきた。
(…え?)
 ケイは、咄嗟に声の聞こえた方に視線をやる。
 木々に邪魔されて各所しか見えないが、獣人族の子供たちがいるようだ。
 空耳…ではない。
「…どうした、ケイ?」
 早くこのことをガイに伝えたかった為か、口よりも先に手が出てしまった。
 ガイのマントを掴んで、ケイが気付かれないように小さな声で伝える。
「…お兄ちゃん。あそこ見て」
 ケイが指差した方角には、先程の子供たちが無邪気に遊んでいた。
「子供…?」
「あれって、狐族だよね?」
 子供たちには、獣人族特有の赤黄色の耳と尻尾がついていた。
「ああ。こんなところに、狐族がいるなんてなぁ…。こりゃ、隊長に報告しておかないとな」
「ケイ、よく見つけたね」
「うん。声が聞こえてきたから…」
「声…?」
「とっても楽しそうな声だったの。まだ子供みたい」
 ケイは、俯いてゆっくりと微笑する。
「狐族の子供か。…ずっと、その声がこの森に響き渡っているといいのに…」
 一方のガイは、複雑そうな表情を浮かべた。
「お兄ちゃん…」
「ガイ…」
 世の中には獣人族を嫌い、殲滅を考える人間もいる。
 今にもその犠牲になりかねない狐族の子供たち。
 そのことを考えると、彼ら「獣人調査隊」は胸を痛めていた。
「その為にも、僕たちが頑張らないとな」
 しかし、胸を痛めるだけでは何も始まりはしない。
 彼らは日々、殲滅を考える人間の改心を願いつつ、獣人族を守っている。
「うん!」
「そうだな!」
 ガイの言葉に、ケイもナユタも力強い返事を返した。
「…んじゃ、帰るとしますか!」
 話が一段落ついたところで、ナユタが綺麗にまとめたが。
「道に迷ったのに、どうやって帰るのよ」
 ケイの痛ーいツッコミが入った。
「そうだったなぁ…」
 道に迷ったことをすっかり忘れていた一行。日も沈みかかっている。


ページ上部へ▲

Colorful Fantasy★
Copyright (C) Esutaryina All rights reserved.